安全な食文化と北海道の写真


食品微生物の面白さ

日付: 2013年03月04日

投稿者: Hiroshi Yamaguchi

題名: Re:TSI培地によるサルモネラ検査

川野さんこんばんは。
この記事で僕が憂慮する食品コンサルには川野さんはまったく入っていません。Facebookを利用し利益目的の無責任な食品コンサルが増えている現実に嫌になったところがあります。

川野さんは、きちんと責任もって食品現場と向きあおうとされている、、それは僕らと同じスタンスだと感じています。

異物混入の可能性では、僕らでも日常よくあります。
前にお菓子屋さんの現場で作業後に女工さんが使っていた餡のプラ製のコテの角がかけていると申告してきて、たまたま僕と副工場長が工場の二階で雑談をしているところに女工さんが駆け込んできました。
それで、僕も現場におりて工場の皆総出でその日つくった草餅6000個のうち、後半につくった3000個を一個ずつ手で割ってボールザルにいれて水道水で餡を洗い中身を確認しましたがコテの破片が発見できません。
夜23時をまわり、皆途方にくれていたので、釧路にある僕のグループ工場で精度の高いX装置があるので、残りの3000個をそれにかけて残りの確認しようということになりました。
製品の納期は3日後なので翌日朝一番で製品を釧路に運んで検査すれば間に合うという事になり工場の関係者と釧路に行きました。

結果、2000個目あたりでX線装置に写った破片の入った個体を発見。廃棄した3000個の草餅を生産し、なんとか安全なものを納品することができました。
この話は何とか発見できる物はどんなことをしても確認し、排除するという食品現場のエピソードです。
当然、このようなことが起きない管理の精度を高めることは当然として、人力をつくしてなんとかなるものはどうにかする、、
でも、どうにもならないことがあります。
X線装置でも金属探知器でも発見できないもの、細かいプラスティック片や木片、あるいは細かいガラスの破損が入っているかもしれないもの。これは悩むまでもなく廃棄しなくてはなりません。

僕が昔在籍した水産工場の支社長は偉かったと思うのは、
ある日、数の子の解凍、脱血処理(数の子の血を抜く工程)で作業者が前日に仕込んだ数の子5トンの原料のタンクの横に破損したガラスのボーメ計(塩水濃度を計る器具)を発見、それを現場責任者に報告しました。緊急で生産会議が行われ、僕も新人ながらQC要員としてその場のやりとりを末席で聞いていました。
みな、洗浄し直して再処理すればいいとか、最後の選別工程で発見するしかない、、という議論をしていました。
当時、数の子の原料はKg1200〜1300円ですから5トンというと、原料費だけで600万円くらいのものです。
製造上の損害が大きいのでみななんとか生かそうとあがいていました。するとじっとそのやり取りを聞いていた支社長が、口を開き、
「おまえらバカか、ガラスの破片なんて見つけられる分けねえだろが、、そんなもの捨てろ、、、500万、1000万でなにガタガタ騒いでんだ、情けない!」
みなこの一言に息を飲みました。議論はその一言で終わりました。
90年代はじめのころ、HACCPの概念もない時代によくあれほどの英断をした経営者だといまでも思います。

消費者の安全と金は秤にかけられない、、ということを皆に教えた経営者でした。

さて、前置きが長くなりましたが、微生物危害に関わることはとても難しいです。
イオン系列の惣菜品やコンビニの要求は、
25℃(常温)に48時間保存し、微生物増殖がないこと、、あるいは10の4乗を超えない事、、
病原菌検査でも、最近はサンプルを35℃に24時間保存し、その後各種病原菌のスクリーニングをやってください。

なんて要求があたりまえになりつつあります。
僕はそんな検査を顧問先から請負います。

病原菌はある意味楽なんです。
その食品の塩分や水分、水分活性、製造工程、製造環境から汚染の可能性や増大するリスクの有無を判断できるので。
感染型の病原菌は、何段階かの増菌培養をかけ対象菌を増殖させ、
いるかいないかを判断する検査です。
毒素型で有名な黄色ブドウ球菌は、卵黄マンニット培地に0,01g塗抹します。これは取引先の基準でも完全な陰性を求めているのではなく、汚染を防止出来ている前提で、0.01g中対象の集落が検出しなければ良し、としています。
出口(出荷時)、入口(納入時)の物差し検査はそれで良いのですが、微生物の問題はそれでは安全を満たすことはできません。

時には非毒素型のブドウ球菌でも出荷を見合わせる必要がある場合もあります。非毒素型でも検出が多いということは、それなりの汚染を受けているし、黄色(毒素型)が存在する可能性も大きいからです。
生菌数の増大も、検出している種類によっては保存性に大きな影響を与える場合があります。
1gあたり10の5乗未満なら良いです、と良いながら扱いによっては異臭で返品になることもあります。
微生物には一般的な中温菌だけで判定するのは危険で、
耐熱菌、低温菌、好塩菌、嫌気性菌(クロストリジア)、通性嫌気性菌、いろいろなものがいます。
大事なのは、その製品の特性から微生物叢(フローラ)を理解し、
品質に影響をあたえたり、安全上危険な微生物をきちんと分析した上で取引上の基準を明確にすることにあります。
ここがなかなか難しく、根気がいる作業です。

最近流行った塩麹漬けの加工食品、水産でも流行りました。
この商品を検査すると、生菌数=<300(0)/g、真菌類<300(0)/g
こりゃいったいなんなんだ?と添加物屋に聞くと、
本物の麹なんか使ったら、微生物基準を満たせなくなるので、殺菌した米に麹フレーバーを混合した塩こうじ風調味です、、最終工程でもレトルト処理してます、、とのこと。
だから、麹の酵素も何もありません。
よのなか、あれを食べて「さすが塩こうじパワーで健康、、」なんて言っているのは人たちは実に奇妙です。

いかの塩辛も、今の日本人はイカゴロで熟成させたものを食べている人は漁師くらいで、多くの消費者は殺菌漂白された無菌のイカにイカゴロ調味ソースをかけた和え物を、イカの塩辛だと思って食べています。

でも、これって、微生物的には危険なことなんだと心配になります。
わかりにくいですね、、また記事にこの話題を書きますね。^^


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