安全な食文化と北海道の写真


人の心を物語る微生物

2013年04月29日 00:30

このところ現場実務の範囲が増え、それに伴う検査分析実務がとても多くなり毎日報告書のノルマが追いつかなくなってきています。
そんな状況なものでついついここでの書き込みもできなくなってしまい、読んでくれている人に申し訳ない想いです。
今日はようやく連休にはいり休み前の仕事も落ち着いたので、久々に面白そうな出来事を整理して書いてみたくなった。

とある工場での話し、、
その工場では工場担当者がいつも忙しくて、どの担当者も僕が訪問してもなかなかじっくり話しをする時間もない。
この工場の業態から、生産工場でありながら、工場の社員は物をつくるのと同時に皆営業のイベント要員でもあるので地方イベントへの出張もとても多い。特に若い社員は数名ローテーションで地方に出払っている事が多い。
当然、抜けたぶんの業務は残ったものでフォローしている。そんな状況が年中なので、工場に訪問しているときはこちらは自分のすべきことは淡々とこなし、なるべく関係者の日常業務の手を止めないようにしている。
必要な報告や確認事項があれば関係者のところに出向いて用をすませている。
いちいち誰それを呼んできてどっしり腰を据えて話しをするということは、彼らの時間を拘束することになるのでやらないよう気をつけている。
そのような雰囲気はお互い暗黙で理解している。
定例で月一のミーティングがあり、僕はもっぱらその場で毎月の進捗や状況の報告も行っている。
しかし、微生物に関する内容はそうものんびりしていられないことが多いので、会議を待たずにその場で関係者と状況報告と調査結果を説明する必要にせまられる場面も多い。

今月のはじめころ、そろそろ日中の外気温度も暖かくなるので妙な兆候が出ていないかと心配し、いつもと違う菌叢が目立ち始めていたので、その結果について警戒レベルの箇所があったので、予防方法について担当者に話しをした。
しかし、そこはトイレのエアタオルで、社員皆が共用する箇所でもあったせいか、工場内の製造環境のリスクとは別次元のこととして、関係者もあまり積極的に感心をもって受け入れようとはしなかった。
それからしばらくし、またその箇所の調査をしてみようと思ったが、今度はその箇所をいつも清掃している担当者からクレームがあった。

「そこばかり集中攻撃されても私、手がまわらないわ、、」
「そうですね、、皆にちゃんと理解してもらうために継続して調査しているんです」
「・・・」

そんなやりとりがあり、再びその箇所を調査してみところ、当初の問題がなんら改善されていなかった。
それでもう一度関係者に理解と協力をもとめた。
「そのリスクは、現状の製品にとり直接的にどんな影響が出ているのでしょうか、、」そんな声も聞こえてきた。
工場において社員の共用個所の清潔度をしっかり協力しあって維持するというのはなかなか難しい。
自分は自分なりにちゃんとやっているのに、、誰それが、とお互い腹の中で思っているせいもあります。
だから共用個所を一人一人の責任としてお互いが管理するというのはとても難しい。
過去にそれがもとで衝撃的な不利益を招いたという事例でもあれば簡単なんですが、そういうこともない。
いつしか、「間合いの遠い話しをこの忙しい最中にほじくらないでほしい、、」というような雰囲気が漂いはじめました。

ところが、そんなことをあれこれ悩んでいる中、先週、そのリスクに起因すると思われる不都合な問題が製品から実際におきてしまった。
外部に出した検査で、その工場の製品から食品衛生上、好ましくないものが出てしまった。
そのリスクが明確にある以上、出荷を見合わせる必要にせまられた。
それで工場の責任者から依頼をうけ、確認のため、同じ検査を僕の所でもやってみた。
同じ結果であった。写真はその検査のもの。
当然、その結果がもとで、朝から工場関係者や営業から慌ただしいメールや電話が多くよせられた。
「原因はなんなんですか!特定してすぐに改善してください!」
と、そんなふうに僕を責め立てたくなる気持ちは痛いほどわかる。
でも、その製品の製造過程やこの菌の特性から、工程中の二次汚染であること、また汚染のタイミングは最終段階に近い段階の汚染であることが
容易に想像できた。
いわゆるその製品に関わる人の問題がとても大きい。
そして、このはっきりとした青っぽいコロニーをまじまじとみていると、はっとさせられた。
この画像にある濃い青いコロニーは人や動物の腸管由来の汚染微生物で、典型的なものであった。
これらの菌群は食品を清潔に取り扱ったかどうか(作業者の手洗い、清潔な容器、洗浄、殺菌のできた器具、飛沫汚染防止など)の指標となる。
現行の日本の食品衛生法上は、そのように判断する指標菌でもある。
この概念をつくったのは、戦後、日本の復興を担ったアメリカの進駐軍である。戦後60年たったいまも日本の食品衛生の指標となっている。
しかし、この概念はとても適切で、日本人の特徴をよく捕らえた菌群なのかと思った。

お互いのことにお互いが無関心で自分主義になって、その現場にいるそれぞれの人の心が忙しさで乱れているとき、
この菌群はまるで警告音を大きくならすように現れてくれた。なんだか人の心をよく表している微生物に思えた。
食品工場の品質担当者は、この菌について微生物学的にあれこれ特徴を議論しても何も予防できない。
もっとも重要なことは、この菌の発生をとりまく現場の作業者や工場全体の雰囲気、その兆候となるポイントをよく見極め、想像しなければならない。
そういう相対的な人の関わりによってこの菌の汚染は発生する。
じゃあ、今どうすればいいのか、、
強い強制力で汚染の可能性となる作業性や個人衛生のルールを強要してもなかなか防ぎきることはできない、、
本質的にこの汚染の原因を一人一人が正しく理解し、協力しあって衛生水準を維持しなければなかなか防ぐことは難しい。
そんなテーマをあらためて投げかけてくれた微生物であった。


 

 

 

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